日本が自滅する日 第2章第2節 民間経済の上に君臨する特殊法人

 

第二章 経済むしばむ“官企業”

第二節 特殊法人は法的には幽霊だ

 民間経済の上に君臨する特殊法人

 そもそも特殊法人とは、戦後経済復興のため短期・集中的に住宅、道路、鉄道等の基本的社会資本整備を行うために設けられたものであった。行政主導の社会資本整備は、初期の工業化時代には必要だったといえる。しかし、国営・公営形態は、経済が一定の発展段階に達すると逆に自由な競争を封じてしまう。

 ところが、わが国政府は、こうした官庁を動員した中央集権的、計画的経済支配から退こうとしなかった。経済への実権を放擲(ほうてき)しなかったばかりか、特殊法人を増やし、事業領域を広げ、関連公益法人や認可法人、孫会社、曾孫会社等をもって経済のあらゆる分野に行政企業の綱を張りめぐらしたのである。「甘い水」に味を占め、国と国民の未来への責任を放棄したのだ。

 特殊法人の事業規模を図表2-3に示した。NTTやJRを含むが、総額で五二兆七六〇〇億円である。これら特殊法人の拡大は地下水脈のごとく政官権力内部でひたすら膨らんでいったため、国民の目には見えにくかった。

特殊法人

特殊法人の事業規模

しかし、私は平成六年、この実態は自由主義市場経済体制を空洞化し、事実上社会主義体制に移行するほど大規模でかつ質的な変化であると考えた。そして国会で調査を進め、平成八年四月には『官僚天国・日本破産』(道出版)を著して、国政調査権による実態調査の中間結果を公表し、わが国は「官営経済体制」 であると規定した。

 官企業としての特殊法人は巨悪である。巨悪である第一の理由は、特殊法人が民間経済の上に君臨し、経済の資源を行政の事務(行政の本来の仕事は事務である)に取りこんで利権の糧とし、国民の借金を増やし、公共(高狂)料金や将来への不安で国民の生活を圧迫していることだ。

 公団、事業団、公庫などの特殊法人が経済の領域から吸収している仕事は、金融、建設、住宅、運輸、不動産、流通、保険、食品、レジャーの各事業、鉄道、空港、道路その他の交通・運輸産業、農業・漁業・林業、その他通信、電力などほとんどの産業分野に及んでいる。

 進出していないのは自動車、電機、機械などの製造業ぐらいのものである (これらの分野では、権力の経済侵蝕がもたらした高コスト構造に悲鳴を上げて、生産地を海外に移転している)。しかも行政企業は、それぞれ進出した分野で支配的地位を占めているのだ。

 この結果、経済の衣を着た行政機関である特殊法人などはそのファミリーとともに市場(経済)を狭め、あるべき税収を減らして国家財政と国民経済に致命的打撃を与えている。


 特殊法人は行政機関ではない?

 巨悪である第二の理由は法的違法性にある。

 わが国は法治国家として行政機関の存立や民間機関の存在根拠が法律によって定められている。いうまでもなく行政機関は「公法」に属する行政法令によって定められ、公のために行う事務を司るものである。これに対して民間の団体・企業などは「私法」である民法や商法などに基づいて存立することになる。

 それでは、現在七七ある特殊法人とは、いったい、いかなる存在なのか。行政機関なのか民間団体なのか。行政法令を見ても民法や商法などをひもといても、どこにも特殊法人を定める条項は見当たらない。つまり特殊法人は法的に幽霊なのだ。

 本来すべての団体はどの法律によって設立されたかによって、行政機関か民間団体かに色分けされる。ところが、特殊法人の場合は上位の根拠法がなく、いきなり「日本道路公団設置法」「石油公団設置法」というようにそれぞれの「設置法」が作られた。

 どうしても、特殊法人という行政機関を作りたいのであれば、国家行政組織法を改正して、特殊法人というカテゴリーを明記しなければ法体系上、整合性がとれないし、適法性も保てない。しかし、それができなかったのは、行政の仕事でないこと(収益・投資活動)をやる団体を行政機関とすることは、法の建て前上、許されなかったからだ(憲法第七章)。それで、やむを得ず、法の孤島=「設置法」でごまかしたのである。

 しかし、いかにごまかそうとも「政策目標を達成するため」法律によって直接設置され、政府が人事権を有し、財投を含む政府予算で運営される以上、特殊法人は「(違法な)行政機関」と見なさざるを得ない。にもかかわらず国家行政組織法に規定はなく、政府は「行政機関ではない」といい逃れている。

 平成二年一一月一九日の衆議院行政改革特別委員会で私はこの点を追及した。特殊法人や独立行政法人について、その存立は「公法」によるのか「私法」によるのか、行政機関であるのか民間機関であるのか1との私の質問に対して、政府は二転三転の答弁を繰り返した揚げ句、旧総務庁の持永政務次官は「公法ではなく私法」によるもので「行政機関ではなく民間機関」だと答弁した。続訓弘(つづきくにひろ)総務庁長官もそれに同意した。

 しかし、その直後、政府参考人の河野昭氏(中央省庁等改革推進本部事務局長)があわてて答弁席に進み出て、大臣、政務次官の答弁を訂正し「公法法人である」が「行政機関ではない」と述べたのである。これによって、政府の立場はちんぷんかんぷんであることが判明した。この答弁によると、わが国には「行政機関ではなく公法法人」という概念の組織が、司法府でも立法府でも行政府でもない所に存在していたことになる。

 法が法を破壊している

 これらの「公法法人」は実際、数千にもおよぶ子会社、孫会社、系列公益法人などを作ってビジネスを展開している。いうまでもなくこれらの株式会社や財団法人などは、商法や民法によって存立する「私企業」「私的団体」として都合よく扱われている。

 わが日本という国は、国が設立し、国民の税金で運営されている「公法法人」が、その金を私企業などの私的所有団体に持ち出し処分することを、ある法律によっては禁じ、別の法律によっては認めている1そういう国なのである。まさに、特殊法人などを通じて法が法を破壊していることになる。

 特殊法人の経理は正確には誰にもわからない。どんなに借金が膨らもうと不良債権に漬かろうと、責任を問われる者がいない。民間企業のように「株主」に監視されることもないし、行政機関として議会で承認される必要もない。

 たとえば、都市基盤整備公団からマンションを買った一七〇〇人(世帯)ほどの人々が現在、公団の住宅販売のやり方が詐欺的商法だと裁判に訴えているが、公団の方は「国の政策」なんだ、詳しいことをいう義務はない、と反論して通ってしまう。

 特殊法人には経営そのものに対する責任の主体がない。企業のように個人責任が問われない。一方、国会で国の機関が詐欺的行為で国民を騙していいのかと追及されると、「契約書を取り交わした。受託の価格は売り手と買い手の合意で決まる」などと「私的契約の自由」や「市場原理」を持ち出してくる。時と場合によって、行政機関のようにも振る舞い、民間企業のようにも振る舞うことができるのだ。

 関連法令はそれぞれの特殊法人を持っている省庁が所管しているので、自分に都合のよい勝手な法解釈がまかり通ってしまう。つまり、族議員と官庁だけの思いのままになる存在なのである。

 政府は特殊法人の不透明財務と借金残高のとほうもない増大に対する批判をかわすため、平成一三年度から「財投債」「財投機関債」を発行し、「市場」からの資金調達を行うことにしたが、この措置は笑止千万である。

 私は、この悪あがきを国会でも批判してきたが、案の定、一三年秋になってもさっぱり財投機関債(個別の特殊法人が発行する債券)の引き受け手がつかない。投資家は、「元本回収のリスクを評価できない」「破産法の摘要もない団体である以上債権は保証されない」と腰を引いている。当たり前のことである。幽霊の発行する借金の証文を受け取る者はいない。

 またそうした事情のうえに、借金の山、不良債権の蔵となっている特殊法人の債券など、自由主義市場経済であれば成り立つはずがないのだ。しかし、それでも官庁は関係機関に一兆円余り引き受けさせたようだ。これぞまさに、オール無責任の官制経済、護送船団国家の極みである。

 子会社、孫会社がどんどん増える

 特殊法人(や認可法人)はどんどん子会社(公益法人も含む)、孫会社などを作る。株式持ち合いの関連企業を含めるとファミリー企業は約二〇〇〇社にのぼる。

 その役職員数は本体を除いて少なくとも一〇〇万人と推計される。本体と合わせると一五〇万人である。政府が大半の株を保有している旧特殊法人であるJRやJT(日本たばこ産業)などを含めると、関連企業数はさらに一〇〇〇社以上増え、就業者数も数十万人増加する。

 特殊法人のなかには民間企業をほとんど丸がかえしているものもある。しかも、特殊法人の事業は公共事業や委託業務が多く、特殊法人によって生計を立てている企業は非常に多い。したがって、特殊法人関係の実質就業者数は二〇〇万人は下らないはずだ。

 特殊法人は資金調達は思いのままだし、株主に対する事業報告書の開示義務もなければ、経理内容も公開しない。国の財投計画の大半を受け入れて事業を展開し、膨大な下請けを抱える特殊法人は、いうなれば企業の王様だ。製造業を除くほぼ全産業分野に君臨している存在なのである。

 特殊法人こそ、日本の資本主義経済にまとわりつく〝締め殺しの木”(ファイカス)の親分格である。ファイカスにまとわりつかれた木は、成分を栄養として吸い取られ死んでしまう。日本経済は死に瀕しているのである。

 借金のツケは国民に回される

 旧総務庁は平成二年五月、特殊法人の一部について財務調査の結果を公表した。それによると、本州四国連絡橋公団については、道路事業だけで七二〇〇億円以上の債務超過となっている。瀬戸内海の狭い区間に三ルートもの橋を架けているので収支率が極めて悪い。一〇〇円の収入を得るのに二〇〇円以上の経費がかかり、利子が利子を生んでいるのである。

 石油公団も二百数十の探鉱事業のうち採算ラインにあるのが数個しかない。石油探鉱会社に出した財投の残高一兆五〇〇〇億円のうち七七〇〇億円以上は回収困難ということだ。

 もちろん、政府がこれまで出し続けてきた税金四兆一七〇〇億円は、まるで何事もなかったかのように掘った穴に消えてしまう(実際は、とっくに利権に消えている)。

 核燃料サイクル開発機構(旧動燃)は一兆六〇〇〇億円の欠損金が累積している。鉄建公団や空港公団の赤字も見通しは暗い、という。旧総務庁から報告のあった九法人とも、まともなものはない。

 国鉄清算事業団は平成二年三月末日をもって解散した。そのさい残された二七兆円の累積債務は全額が一般会計に付け替えられた。そのうち三兆円だけはたばこ税の増税分で償却することになったが、残り二四兆円は全額国民にツケ回しされた。

 いま、道路公団や都市基盤整備公団は「第二の国鉄」といわれている。それら特殊法人の赤字のツケは、国鉄の前例にならって国民に回される可能性が強い。特殊法人の借金残高は認可法人を含め三四四兆円であり、その金額は年々歳々膨らみ続けている。

 ここであらためて強調しておきたいのは、特殊法人の借金は国の借金以外の何ものでもないということである。なぜならば、公庫、公団、事業団といった特殊法人は国会の議決で設置された国の政策遂行機関であり、国の出資金や補助金で運営されているからである。

 特殊法人には財政投融資から毎年二五兆円もの融資がなされ、その利払い金や出資金として毎年四兆円以上の国費が注入されている。そのうえ、国鉄清算事業団をはじめとする特殊法人の清算金や欠損金は現実に国民の負担に転嫁されている。

 しかも、恐ろしいことに、特殊法人は一般企業のように倒産することがないため、借金はどこまでも際限なく膨らみ続ける。こうした事実だけからでも、特殊法人というものが、いかに巨大な利権装置であるかがわかる。それだけに、じつは政と官にとって、何としても守らねばならない砦なのである。

 節を改め、代表的な特殊法人について具体的な活動をみてみよう。

引用元 祐さんの散歩路

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